薬局経営において「棚卸(たなおろし)」は、決算時に必ず行う重要な業務の一つです。
しかし実際には、「どこまでを在庫として計上すべきか」「在庫の評価額はどう求めるか」など、迷う場面も多いのではないでしょうか。
本記事では、薬局における棚卸の基本的な考え方と、会計・税務上のポイントを整理して解説します。
棚卸の目的は、期末時点で保有している薬剤や医薬品の在庫を正確に把握することです。
会計上の原則では、医薬品は「仕入れたとき」ではなく、「使用したとき」に費用(売上原価)として計上します。
そのため、期末時点で未使用の薬剤がある場合、それらは翌期に繰り越す「資産(棚卸資産)」として扱う必要があります。
例として、3月決算の薬局で100万円分の薬を仕入れたうち、期末時点で40万円分が残っている場合、
この40万円は「翌期の資産」として貸借対照表に計上し、当期の費用から除外します。
このように棚卸は、費用と収益を正しい期間に対応させるための重要な会計手続きなのです。
薬局の棚卸対象には、調剤用の薬剤だけでなく、次のようなものも含まれます。
一方、包装資材や販促用印刷物などは、通常「消耗品」として購入時に費用処理します。
また、個人立替などで仕入れた薬品も、期末時点で薬局として保有している場合には在庫に含めて評価します。
在庫数量を確認したら、次に「評価単価」を決めて在庫金額を算出します。
このとき使用する評価方法を「在庫評価法」と呼びます。
税法上の原則的な方法は 「最終仕入原価法」 です。
これは、決算日に最も近い仕入価格を基準に在庫を評価する方法で、医薬品のように仕入単価が変動しやすい業種に適しています。
仕入日 | 数量 | 単価 | 金額 |
---|---|---|---|
1月10日 | 100錠 | 100円 | 10,000円 |
3月15日 | 100錠 | 120円 | 12,000円 |
期末に80錠残っていた場合:120円 × 80錠 = 9,600円 が在庫金額となります。
棚卸は、期末の実地確認を行い、数量×単価で金額を求めるのが基本です。
一般的な手順は次の通りです。
重要なのは、実際に使用可能な在庫のみをカウントすることです。
返品予定品や使用期限切れなど、販売・使用が見込めないものは除外します。
最近では、当事務所の顧問先を含め、「ゼロストック」などの在庫管理システムを導入している薬局が増えています。
こうしたシステムは、処方データや仕入データと連動して、薬剤の入出庫をリアルタイムで管理します。
導入によって、
といった効果が得られ、棚卸業務が大幅に効率化されます。
特に複数店舗を運営する薬局では、店舗ごとの在庫状況を一元的に管理できる点が大きなメリットです。
これにより、在庫の「見える化」が進み、経営者自身が数字で在庫を把握する文化が浸透しつつあります。
棚卸データは、単に決算のための数字ではなく、経営判断に役立つ情報でもあります。
代表的な経営指標に「在庫回転率」と「在庫回転期間」があります。
以前執筆した在庫管理の重要性に関してのコラムで詳しく述べていますが、
これらを定期的に確認することで、仕入と販売のバランスを客観的に分析できます。
在庫回転率が下がっている場合は、仕入れすぎや処方傾向の変化、特定薬剤の偏りなどが考えられます。
このように、棚卸の数字を「経営のモニタリング指標」として使うことで、無駄のない仕入やキャッシュフロー改善につなげることができます。
棚卸金額は、直接的に「利益」に影響します。
期末在庫が増えれば利益は増加し、逆に減れば利益は減少します。
税務上も、棚卸の正確性は重要です。過少に見積もると利益が少なくなり、税務リスクが生じる可能性があります。
また、金融機関も棚卸資産を重視しており、在庫管理が適正な薬局は「経営管理が行き届いている」と評価される傾向があります。
薬局の棚卸は、単なる年次業務ではなく、経営と会計をつなぐ重要な管理プロセスです。
当事務所では、薬局専門の会計事務所として、棚卸や在庫管理の経理処理だけでなく、
システム活用・財務分析・月次報告の整備までサポートしています。
「棚卸をもっと効率化したい」「在庫の数字を経営に活かしたい」という経営者様は、ぜひお気軽にご相談ください。