薬局を経営する中で、経営者が毎年悩むテーマのひとつが「役員報酬をいくらに設定すべきか」です。
役員報酬は、経営者の生活費やライフプランに直結する一方で、法人の利益や資金繰り、さらには税務・融資審査にも影響を及ぼします。
安易に金額を決めてしまうと、思わぬ税負担や資金繰りの悪化を招く恐れがあるため、慎重な設計が必要です。
ここでは、薬局に特有の視点から、役員報酬の考え方を整理します。
法人税法上、役員報酬は 期首から3か月以内に決定し、以後は原則として同額を継続して支給しなければなりません。
期中に恣意的に変更すると、増額分は法人の経費にできず、税務上のリスクとなります。
したがって、期首時点で1年間の利益計画・資金繰り・税負担を見据えて設定することが欠かせません。
薬局の売上は「薬剤料」と「技術料」に大別されます。
このうち薬剤料は薬価改定や仕入価格に大きく左右され、経営努力でコントロールしにくい部分です。
一方、技術料は処方箋応需枚数や加算の取得状況によって積み上がる、薬局が本来稼ぐ力を表す指標 です。
そのため、役員報酬を設定する際には「技術料を基準に一定割合を報酬に充てる」という考え方が有効です。
例えば、
といった形で、技術料の範囲内で無理のない報酬水準を決めるのが、実務上の合理的な方法といえます。
税務の観点では、法人の所得金額が800万円を超えると法人税率が上がる という重要なポイントがあります。
中小企業に適用される軽減税率は、所得800万円までは15%(一部期間は19%)、それを超える部分は23.2%となります。
さらに、法人税だけでなく、地方法人税や住民税・事業税の税率もあわせて上昇するため、実効税率の負担が重くなる点に注意が必要です。
そのため、役員報酬を調整して法人所得を800万円以内に収めることを検討するのも一案です。
ただし、報酬を増やせば経営者個人の所得税・住民税が増加するため、法人税+地方税+個人税を合算した全体最適を意識する必要があります。
役員報酬は原則毎月同額ですが、追加的に報酬を支給する方法として「事前確定届出給与」があります。
これは、あらかじめ税務署へ届出を提出しておくことで、決められた時期に決められた金額を支給する役員賞与を損金算入できる制度です。
薬局経営では期末に利益が読みにくい場合も多く、この制度をうまく活用すれば、法人税負担を抑えつつ経営者への資金確保につなげられる
というメリットがあります。
なお、注意点として「届出を出しても、実際には不支給とする」選択肢もあります。
この場合、法人側の経費にはなりませんが、資金繰りや利益状況を見て支給の有無を柔軟に判断できるというメリットもあります。
もうひとつ見落とされがちなのが、金融機関からの評価です。
役員報酬を大きく設定しすぎると法人に利益が残らず、銀行から「利益の出ていない会社」と見なされる可能性があります。
特に、今後の追加借入や新規出店を考えるなら、法人に利益をしっかり残しておくことが重要です。
金融機関は「返済原資となる利益が安定して出ているか」を重視するため、
法人税を抑えるために利益を極端に減らすと、資金調達の障害になりかねません。
役員報酬を決める際には、以下の観点を総合的に検討します。
単に「生活費ベースでいくら欲しいか」ではなく、法人・個人・金融機関の3方向のバランスを意識することが重要です。
薬局経営者にとっての役員報酬は、生活費であると同時に経営戦略の一部でもあります。
当事務所では、薬局経営に特化したノウハウを活かし、役員報酬シミュレーション、税負担の最適化、
金融機関対応を見据えた利益計画までトータルにご支援しています。
「今の役員報酬設定は妥当なのか」「税負担と資金調達を両立するにはどうしたらよいか」といった疑問をお持ちの薬局経営者様は、
ぜひお気軽にご相談ください。