調剤薬局の会計処理で特に誤りやすいのが「診療報酬の月ずれ」と「源泉徴収」の扱いです。
診療報酬の入金時期と売上計上の時期が一致しないため、実際の入金だけを基準にしてしまうと、正しい売上や利益を把握できなくなってしまいます。
今回は、薬局経営においてよくあるこの2つのポイントについて、具体例を交えながら解説します。
調剤薬局が保険調剤を行う場合、レセプト(診療報酬明細書)を毎月提出し、審査支払機関を通じて支払いを受けます。
ただし、この入金のタイミングは、実際に調剤を行った月の翌々月が一般的です。
たとえば、
というように、売上の発生から入金までにタイムラグが生じます。
これが「月ずれ」と呼ばれる現象です。
このように入金月と実際の提供月が異なるため、会計上の売上計上は「提供月ベース」で行う必要があります。
つまり、8月に調剤した分は10月に入金されても「8月の売上」として記録しなければなりません。
もし入金された月に売上を計上してしまうと、月次の損益が実態とずれてしまいます。
たとえば、8月の売上が10月にまとめて計上されると、8月は赤字に、10月は黒字になるような極端な数値が出てしまうこともあります。
これでは経営状況の把握が難しくなり、次のような問題が発生します。
特に複数店舗を運営する薬局では、店舗ごとの業績比較にも影響するため、「提供月ベース」での売上計上を徹底することが重要です。
もう一つの注意点が、診療報酬に対して差し引かれる「源泉所得税」です。
薬局が受け取る診療報酬には、国税庁の規定に基づいて所得税が源泉徴収される場合があります。
つまり、実際の入金額は「総売上」から源泉税が控除された金額となります。
所得税法では、国民健康保険団体連合会から支払われる診療報酬については、源泉徴収の必要はありませんが、
社会保険診療報酬支払基金から支払われる診療報酬については、源泉徴収が必要とされています。
源泉徴収される金額の計算は、その月に支払われる金額から20万円を差し引いた残額に復興特別所得税を含めた10.21%を乗じて行います。
社会保険の診療報酬が100万円だった場合の源泉徴収額は、
(100万円-20万円)✕10.21%=81,680円
となります。
たとえば、8月の社会保険の診療報酬が100万円、国民健康保険の診療報酬が100万円で
源泉所得税が81,680円差し引かれる場合、実際の入金額は1,918,320円です。
このとき、通帳の入金金額だけを見て「1,918,320円が売上」と処理してしまうと誤りになります。
正しくは以下のように処理する必要があります。
このように、源泉所得税はあくまで仮払い分として会計処理し、実際の売上は控除前の金額で計上するのが正しい方法です。
診療報酬の月ずれや源泉徴収を正しく処理するためには、日々の帳簿管理と情報整理が大切です。
以下のような対応を心がけると、正確な会計処理につながります。
これらを定期的にチェックすることで、経営状況の見える化が進み、税務対応もスムーズになります。
薬局経営では、診療報酬が売上の大部分を占めるため、
この「月ずれ」や「源泉徴収」を誤って処理すると、経営判断や資金繰りに大きな影響を与えます。
月次処理の精度を高め、実態に即した会計データを整えることが、経営の安定化と信頼向上の第一歩です。
もし処理方法に不安がある場合は、薬局会計に詳しい専門家に相談することをおすすめします。
新橋税理士法人は、調剤薬局・ドラッグストアを中心に支援している「薬局専門の会計事務所」です。
診療報酬の月ずれ処理、源泉徴収の対応、資金繰り管理、経営分析など、薬局経営に特化したノウハウを多数有しています。
正確な会計処理で経営を安定させたい方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
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